HOME > 新着情報 > 2009年05月の新着情報 > 「施設運営から法人経営へ」 町田福祉園統括施設長 阿部美樹雄
2009年05月22日
施設運営から法人経営へ
~平成18年度から平成20年度をふり返り~
はじめに
社会福祉施設の経営は措置制度から契約制度に変わった2000年以降大きく変わりました。
これまでの「施設運営(管理)という側面から「法人経営」へと変わりました。それまでは施設単位での措置費の使途については厳密に制限されていました。現在は「サービスの対価」としてかなり規制緩和されています。
また、施設の規模についても一法人一施設が多いのですが、人材育成、人材確保、資金調達、リスクの分散など、規模拡大によるスケールメリットの獲得、事業の安定的継続を行ってきました。今、この点に気づいてもスタートラインには着けません。みずき福祉会の経営的状況分析は、これまで成功してきています。
今必要なのは、「人材」から「人財」へのスキルアップです。次の時代に「どのような人材が必要か?」ということです。企業ではよく「人・モノ・金」といいますが,社会福祉法人の「モノ・金」は公が占める割合は圧倒的に多いのです。つまり社会福祉法人は「人・人・人」がもっとも大切です。
Ⅰ 組織マネジメントについて
1.規模拡大について
措置費までの時代は、施設は措置費と施設整備費補助金によって運営されていました。措置費には指導監査による厳格な使途制限、施設整備費には補助金適正化法の制約、という規制の中で、「一法人一施設」体制が出来上がりました。制限はあるが経営的には安定していたのです。みずき福祉会も「八王子平和の家」を運営するために設立されました。言うならば「一施設を運営するために求められる手続きとしての法人設立」という性格でした。
2003年以降の契約の時代にあっては、経営の効率化・安定化のためには、法人全体でトータルとして採算を取ることが不可欠です。そのためには、複数の施設・事業を運営し多角的な経営を行える「規模」が必要です。これは、地域ニーズに対応して柔軟な事業展開や、職員に多様なキャリアアップの機会を与えることができるという点においても有効な方策として考えられます。
現在の法人の規模が妥当か?という判断は、会計上の適正化、職員の成熟度など総合的な見地が必要です。みずき福祉会は、貸借対照表を見る限りでは安定感はあるが、コア職員の養成等を見る限りでは、強い地域のニーズ・極めて創造的な事業等で小規模事業を請けることなど以外は、規模拡大よりは人材養成の時期と考えられます。
ただし、事業運営上のコア職員が確保できた場合はその限りではないと思います。
2.ガバナンスの確立
規模拡大に伴い法人としての統制能力が問われます。理事会は、名目的な機関ではなく、法人の執行機関として実質的に機能し、経営能力を向上させることが必要です。そのためには、法人の事務局体制や本部体制の強化や、経営管理部門・事業部門の中核を担うコア職員の育成・確保が必要です。
小さな事業所を多く抱え規模の拡大をしてきた法人の場合は、全体を管理する本部体制の強化が必須となりますが、みずき福祉会のように町田福祉園が予算や職員数が法人全体のほぼ半分の規模の場合は、たとえば法人会計の処理、印鑑等の管理は法人本部機能とし八王子平和の家で、人材確保・育成、定款改正、理事会の運営による事項などは法人事務局として町田福祉園で行うなどの分化も一つの考え方として検討し、早い時期での体制の確立が必要です。
多くの社会福祉法人は、零細企業でいつも余裕のない状態の中からでは「法人のあるべき姿」に近づくことは困難です。強い統制機能により小さな事業所でも研修の機会を得ることができスキルアップができるなど「小規模であることのデメリットを克服していく」視点が必要となります。
社会福祉は、すでに生活インフラの大きな要素となっています。その高い公益性と公共性から、法人の"思い"、"考え"、"哲学"等、社会的責任を見える化(ビジュアル化・アピール)し、入所施設でも、地域のニーズに応える「必要とされる法人」とならなければなりません。
3.人材の確保と育成について
現在の社会情勢のなかで良質な人材を確保することは至難の業です。社会福祉従事者への間違ったイメージが植え付けられ養成校への入学者の激減など福祉需要のピークを目前にして大きな社会問題となっています。ただし、事業者側のミッションの欠如、援助技術の未熟さ等による権利侵害の事件の報道なども大きな責任があることも事実です。
また、契約の時代になり経営者が必要以上の不安により非常勤職員を多く雇用しすぎたことも全体の質的な低下を招いた要因でもあると思われます。平成21年度に示される人材に対する加算用件は、次の3点です。
Ⅱ 「人材」から「人財」へ
1.福祉人材養成の特殊性
モチベーションとは、「何かやりがいのあることを成し遂げたいという欲求」であり、福祉においては、「障害を持たれている方や、お年寄りにお役に立ちたい」精神的満足度への欲求です。この欲求に対して学べる環境、土壌を作ることが施設長(経営者)の役割です。
また、施設の中で対象者との関係性そのものを教育環境と捉える発想が施設長(経営者)に求められます。私は、「障害をもたれている方がいとおしい、この仕事は面白い」と職員が思ってもらうにはどうしたらよいのか?ということが長年の課題でした。
しかし、現場では、「人材育成の必要性は当然わかっているが、どうしたらいいのかわからない」といった声をよく聞きます。この職場は、対象者と職員との個別性を軸に成立する関係の中での養成なのです。生産性を上げる、売買の結果としての成果など見える形とは違う点がわかりにくいのです。
2.対人援助技術とは
基本は、同じ人間としてともに歩んでいこうという人間関係を作っていくことであり、支援を必要としている人がどのような気持ちでいるのか、どんなことを考えているのかを引き出すのが重要です。支援を必要としている人を受け止め(受容)、その人の問題と感情に共感し、その人自身が自らの気持ち引き出す手伝いをするのが役割です。人は気持ちを誰かに伝えること(外化)により落ち着き、整理(昇華)することができるようになります。支援を必要としている人が話したくなるような人間関係、話し方、態度が大切です。
3.バィスティックの7原則
ソーシャルワークの援助技術の原則として代表的なものとしてバィスティックの7原則というものがあります。
4.「安心・安全」という援助技術
私の「心のケア」の理論はカウンセリングをベースとして「ジェントルティーチング」「動作法」などの理論を取り入れています。
ジェントルは四つの基本的な感情、安全であること、かかわり合うこと、愛されていること、愛すること、に焦点を当てます。理念であって支援技術です。
最近、参加した激しい行動障害のある人の事例検討では、便こねや他害をする方へのジェントルな支援で今ではみんなといられるようになったことを表情の写真と合わせての紹介がありました。涙が出てきました。
安心感は自尊心を生み出します。支援者は「私といると安心です」「私の手は決してあなたに乱暴なことはしません」「私の言葉は決してあなたを侮辱したりしません」「私の目は決してあなたを見下りしたりしません」ということを信頼してもらう必要があります。
「安心・安全」を感じ取ることは支援者といれば安らぎが得られるという深い洞察をもたらします。私が福祉の仕事に従事してたどり着いた大事な視点です。思っていることと実践との一致、難しいことですがそれが「仕事」です。
5.「安心」を作り出す相互行為・・・「人材から人財へ」
安心を感じているとき人は幸福を感じます。そのために必要とされていると思えるとき、支援者も癒され「人格」が成長したように思えます。福祉とは、一方通行ではなく相互作用です。シンプルなことほど難しいことなのかもしれませんが、誰もが必要としていることです。